2025-05-21
Special Contentsカルチャーモデル醸成へのプロセス #5 前編2022年6月から始まったKnowledge Baseのカルチャーモデル醸成プロジェクト。ここ2年ほど、創発デザイナーのAKIさんのサポートのもと、経営幹部だけでなく若手社員も加わってパーパスの検討を重ねてきました。今回は、若手社員の中心的存在として議論を牽引してきた4名に、パーパスに込めた思いと、Knowledge Baseのめざす姿について聞きました。
聞き手:AKI(野口正明):とんがりチーム研究所主宰/未来創発デザイナー、ナレッジベースCCO(Chief Culture Officer)
文:田井中麻都佳:編集・ライター
写真:高橋宗正
AKI ここまで皆さんとの議論を経て、最終的に2024年5月に、Knowledge Baseのパーパスを「知的好奇心の先にある『それ、いいね!』を届けよう」に決定しました。結果としては、当初、経営チームが提案していた言葉とあまり変わらなかったわけですが、議論を重ねるなかで、最後の文言を「突きつめよう」から「届けよう」へと変えましたね。まず、このパーパスについてそれぞれどのように考えてきたのか、聞かせていただけますか?
藤岡謙太郎 最初、「知的好奇心」という言葉を聞いたときは、まったくピンとこなかったんですね(笑)。だから当初は、「知的」って言葉はいらないんじゃないかと若手を中心に話し合って、別のパーパス案もいくつか出していたのです。ただ、そこから何カ月も議論を重ねるなかで、Knowledge Baseがめざすもの、原動力になっているものが、単なる好奇心というより、顧客のビジネスや社会をより良くしていくために必要な「知的好奇心」に突き動かされているんだなと、だんだん腹落ちしてきたのです。だから、最初の言葉からあまり大きく変わっていないけれど、最終的にはとても納得しています。
保井健佑 このパーパスと同時に、顧客への提供価値として「クリエイティブでサステナブルなIT」という言葉を掲げたことで、その意図が少しクリアになったのかな、と思っています。
AKI すでにホームページには企業理念として、これらの言葉を掲げていますが、これを初めて見る人にも、Knowledge Baseがどういう企業をめざそうとしているか、伝わると思いますか?
保井 もちろん、ここまでの議論や背景を知らない人に突然この言葉を見せたら、「なんだそれ?」となるのかもしれません。でも、どんな会社なんだろうと、興味は持ってくれるんじゃないかと思っています。ITベンチャーで、「サステナブル」という言葉を掲げている企業は珍しいですからね。特に、Knowledge Baseにはインフラ部門があり、実際に企業活動をITで下支えする業務に携わっているため、サステナブルという言葉はより説得力があるんじゃないかと思っています。
金子晶夫 そういう意味では、新パーパスを決めた際に、坂本さんから、「われわれは『ユニコーン企業』ではなく、『ゼブラ企業』をめざす」と言われたことで方向性がはっきりしたし、パーパスがよりしっくりくるようになったと思っています。
AKI 改めて説明すると、ユニコーン企業というのは、株式未公開のベンチャー企業のうち、時価総額10億ドル以上で、急成長をめざす企業を指します。一方、ゼブラ企業は、社会性と経済性の両方を追求するスタートアップのこと。それを聞いたときに、納得感があったということでしょうか?
金子 はい。というのも、実は転職の際に、当社と別のもう一社で迷ったんですね。その会社がめざしていたのはまさにユニコーン企業だったのですが、上場が目的になってしまっているところに何か共感できなくて、それで当社を選んだのです。だから、親や友人から、「Knowledge Baseってどんな会社?」ってきかれたときに、「ゼブラ企業をめざしている会社なんだよ」と言えるのは、けっこう気に入っています。もっとも、端的に説明したいときは「四季報オンライン」をやっている会社だって言いますけどね(笑)。
藤原旭宏 僕もKnowledge Baseは当然、ゼブラ企業をめざしていると思っていたので、坂本さんの言葉を聞いて、とても納得した感じです。
保井 もしユニコーン企業をめざすと言われていたら、抗議したかもしれないよね(笑)。
金子 そもそもユニコーン企業って、1万人の顧客がいたら、9000人が満足してくれたらそれでいいというか、残りの1000人の不平不満には目をつぶることで利益を上げていくイメージがあるんですね。それが僕には違和感があった。やはり自分が関わっているお客さま全員に満足してほしいし、そういうスタンスで臨みたい。それが、パーパスの最後の「届けよう」という言葉にも表れていると思っています。
保井 まさにユニコーン企業って、「焼畑農業」のイメージがありますよね。それに対して、ゼブラ企業は最後まで顧客と伴走する。それは継続的で良好な関係性がなければ不可能なわけで、まさにサステナブルという言葉に集約されているように思います。
藤原 僕自身は以前、大企業に勤めていたのですが、数万人、数千人規模の会社だったら、こうしたプロジェクトにこんなに時間をかけられなかったと思うんですよ。全員が参加していたら、それこそ収集つかなくなるでしょうし。一方、ユニコーン企業が素早い意思決定ができるのは、トップダウンで独断で決められるから。その点、当社のようなゼブラ企業の場合は、時間をかけながら全員が腹落ちしたうえで合意形成していくことになる。それは対顧客でも同じで、対話しながら決めるというプロセスを大切にしています。それこそが、Knowledge Baseらしさなのかもしれませんね。
AKI いままさに藤原さんが言ったことは、新パーパスの戦略ストーリーにも書かれていますよね?
藤原 はい、「伴走と共創〜圧倒的チーム体験〜」という言葉を掲げています。当初、この言葉は顧客との関係性に対する言葉だと理解していましたが、これは社内の関係づくりにおいても同じことですね。
AKI まさにそうですね。しかしなぜ、Knowledge Baseでは全員納得したうえでの合意形成が必要だったのでしょう?
藤原 大きな組織であれば、組織のロジックで動くことで統制を取らざるを得ないと思うんですね。あるいはユニコーン企業であれば、とにかくスピード感が求められる。一方、われわれのように経済性と社会性の両立をめざすとなると、長期的な視点に立つ必要があります。長い目で見たときに、小さい組織で社員全員を知っている環境で仕事を続けていく際に、自分の思いや考えをきちんと示して能動的に仕事をしていかないと行き詰まってしまうような気がして。だからこそ、時間をかけてでも、皆が納得して合意形成をしていく必要があるんじゃないでしょうか。
AKI そういう意味で、「伴走と共創」はできていますか?
藤原 実感としては6〜7割できているのですが、できていない残り3〜4割にこそ本当の価値があるのかもしれない。だからこの状態に甘ずることなく、やはり残りの部分でも共創ができるようにしていかなければならないと思っています。
藤岡 僕もまだできていないのですが、最近、意識が変わってきたと思っています。これまでは、顧客から何かタスクを投げられたら、言われた通りにただこなしていたのですが、事前に「何のためにやろうとしているのか」と確認しておけば、もっと最適な提案ができただろうし、顧客と一緒により良い方法を見つけることもできたはずだと気づいたんですね。そうやって、こちらから働きかけるようになったら、顧客との関係性自体が変わってきた気がします。
AKI 双方向のやり取りができる関係性へと変わってきてきた?
藤岡 そうですね。もちろん、すでに仕様が固まってしまっているところに新たに提案を投げかけるのは難しいけれど、細部についてはいろいろ提案できるようになってきました。将来的に、システム開発の大元のところから当社へ相談していただけるようになれば、本当の意味での「伴走と共創」が実現できるのかな、と。そのためには、まずはこちらから働きかける必要があると思うようになりました。
藤原 その通りで、これまでうまく共創できていなかったとしたら、実はこちらから働きかけてこなかっただけなのかもしれません。一度話をしてみたら、意外にすんなり受け入れられるかもしれない。そのほうが両者にとってメリットがありますしね。もっとも、いつも「共創と伴走」ができる相手とだけ仕事ができるわけではありませんし、当然、そこは譲歩しながらではありますが。ただ、そうは言っても、そういう関係性を築けるパートナーと仕事をしたい、という気持ちではいます。
金子 それって、恋愛と同じだと思うんですよね。
一同 おおっ(笑)。
金子 100パーセント相性のいい相手を探すのは無理だけど、自分たちもお客さんのここが好きだな、共感できるなという部分があって、お客さんの側も、Knowledge Baseのコアな部分を気に入ってくれて、という関係を築くことが重要なんじゃないでしょうか。
保井 そういう意味では、「年度末に予算が余ってるからちょっと何かつくってよ」という依頼の仕方をしてくる会社とは相性悪い気がしているんですね(笑)。それではどうしても、提供できる価値が曖昧になってしまいますからね。
もう一つ重要な点は、たとえばこちらが一度提案して、さらにより良い方法が見つかったときに、気兼ねなく前言を撤回して、再提案できるような信頼関係を結べるかどうかというのも、重要だと思います。
金子 あるいは、エンジニア目線でデータ設計はこうしたほうがいいですよといったわれわれの提案を、ポジティブに受け取ってもらえるような、そんな良好な関係性を築いていくこともとても重要ですよね。
(後編へつづく)