2024-03-13
Special Contentsカルチャーモデル醸成へのプロセス #4 前編Knowledge Baseのカルチャーモデル醸成プロジェクト開始から1年半以上が経過しました。最初の半年間は、創発デザイナーAKIさんのファシリテーションにより、坂本代表と部門責任者である佐々木俊也さん、佐々木皓也さんの3名で定期的に議論を重ね、「らしんばん」 を使って、パーパスから戦略へと話を進めてきました。
今回は、佐々木俊也さん、佐々木皓也さんに、ここまでの活動を振り返っていただきました。
聞き手=AKI(野口正明):とんがりチーム研究所主宰/創発デザイナー 田井中麻都佳:編集・ライター
記事の後編カルチャーモデル醸成へのプロセス #4 後編 源泉は「知的好奇心」にあり~二つの活動を通じて、カルチャーモデルの醸成を実感
最初、このプロジェクトが始まったとき、お2人ともかなり戸惑っていらっしゃるように見えたんですね。実際はどうだったのでしょうか?
佐々木皓也 あぁ、確かに戸惑っていましたね(笑)。なぜ戸惑っていたのかというと……もちろん、ルーティンが多忙で、カルチャーモデル醸成プロジェクトのために別途時間を割くことが難しいと感じていたこともあります。
また最初の頃は、いままさにこのプロジェクトをメインで動かしてくれている若手の社員たちが入社してきたばかりで、研修の真っ只中だったり、現場に出始めたところで私のサポートが必要だったりということが大きかったと思います。当時は開発の正社員として実務を動かしているのは私だけだったので、通常の業務もこなしながら、新しいプロジェクトに関わること自体、負担に感じていたんですね。引き続き採用活動も続けていましたから、教育と採用、さらに新規のプロジェクトのスタートと、かなり大変な状況でした。
また、これまでこうしたプロジェクトをほとんど経験したことがなかったので、通常の頭の使い方とはちがうとも感じていて、その点でも戸惑いがありました。
佐々木俊也 私の場合は、前職含めて、会社のカルチャーづくりというものを経験したことがなかったこともあり、カルチャーをつくるということの効果に対して懐疑的でした。先ほど皓也君が言った通り、通常業務も忙しかったので、このプロジェクトにどれだけ自分のリソースを割くことができるのかな、とか、本当に効果があるのかな、というのが正直なところだったんですね(笑)。
それは、企業のカルチャーというのは意図的につくるというよりも、気がついたらできていた、というイメージがあったのでしょうか?
俊也 ベンチャー企業の場合、カルチャーには社長の意思が強く反映されるものだろうというイメージがありました。つまり、皆で意見を出し合っても、最終的には社長の意見に左右されてしまうんじゃないかな、という気持ちがあったんですね。
最初の頃はずっとオンラインでお話しさせていただいていましたが、確かにお二人とも乗り気ではなかったというか、何か腑に落ちない顔をされていたのが印象的でした(笑)。それが明確に変化した、と感じられた瞬間がありました。議論が拡散していくなかで、まさに俊也さんから、「何をしたらいいのかわからない、モヤモヤする」と疑問が投げかけられて、それに対してAKIさんが、そもそも創発とは一筋縄ではいかないこと、また対話が発散していくなかで、「GROAN(うめき声)ゾーン」と呼ばれる修羅場をくぐり抜けてこそ創発に至るものだ、というお話しがありましたね。その後、俊也さんの表情がパッと変化して、納得されていたのが画面越しにも伝わってきました。
俊也 おっしゃる通りです。AKIさんのお話しを聞いて、ものすごく影響されたんですね。そういう物事の考え方、思考方法があるのか、と。いままでそういうふうに考えたことがなかったので、すごく感銘を受けたのです。
私自身、理系出身ということもあるかもしれませんが、これまでは、何か議題があって、それに向けて解決策に導いていくという手法で物事を進めていくことが多かったのです。要素をまとめるとか、最適解を求めるとか、いろんなパターンを考えてそこに向かっていくとか。ところが、このプロジェクトでは、最初のミーティングからまったくそういうやり方ではなくて、「まずは自由に話しましょう」と言われて、「えっ?」っとフリーズして、思考が停止したのを憶えています(笑)。
AKI 俊也さんたちは前職でも坂本さんと同じ会社にいらして、坂本さんの経営スタイルや組織観というのは側で見てこられたと思うのですが、このプロジェクトに入る前に、坂本さんから、なぜカルチャーモデルが重要か、といった話は聞いていなかったんですか?
俊也 意外にもそういう話を事前にあまりしていなかったんですね。よく飲みに行っているんですけどね(笑)。坂本さん自身、内なる思いをわれわれにあまり伝えていなかったんだと思います。もっとも私は、「坂本さんが社長としてやりたいことをやったほうがいいですよ」ということは、経営メンバーの一人として、よく言っていましたけれど。皓也君は聞いてた?
皓也 僕も聞いていなかったですね。
俊也 だから、このプロジェクトが始まってみて、初めて坂本さんがこういうことを考えていたんだなと驚いたところはあります。
皓也 ただ、以前は明らかにトップダウン経営でしたが、創業から数年を経て、積極的に採用を始めた昨年あたりから、坂本さんの意識が大きく変わってきたと感じていました。だからこそ、カルチャーモデルが必要だと思ったんじゃないかな、と。昔の坂本さんを知る人なら、「どうせ社長が途中で全部ひっくり返すんでしょう?」って思うだろうけど、いまは全然違っていて、社員に全面的に委ねているので、ちょっとびっくりしています(笑)。
AKI それは僕もまったく同感です。それこそ大学時代の4年間、ほぼ毎日、早稲田大学グリークラブの活動で坂本さんと一緒にいましたが、パートリーダーとしての彼は完全にトップダウン方式でしたからね。それが、昨年、長いお手紙をもらって、カルチャーモデル醸成の手伝いをしてほしいと言われたときは、正直、とても驚いたのです。
皓也 やはり社長としての坂本さんの意識が変わり、本気度が伝わってきたからこそ、最初は戸惑いがあったものの、私自身、このプロジェクトに前向きに参加するようになったというのはありますね。
プロジェクトが始まってから、具体的に行動として変わったところはありましたか?
皓也 カルチャーモデルについて調べて、ちゃんと意見を言うようになりましたし、どういう人と一緒に働きたいのか、ということを自分自身、けっこう考えるようになりましたね。実際に、そういう仲間を意識的に集めてもきた。ただ、思い返してみれば、このプロジェクトが始まる前から、「この人はうちとはカルチャーが合わないよね?」といって、採用に至らなかったケースは多々あったのです。
経営陣のなかには、すでに共通認識としてのカルチャーモデルの芽のようなものがあったわけですね。私自身もどういう人と働くのか、ということは、とても大切にしているのですが、俊也さん、皓也さんたちにとって、一緒に働きたい仲間というのは、どんな人ですか?
皓也 最初は経験者を探していたのですが、なかなかいい人が来ない、応募すらないといった状態のなかで、開発については未経験者も視野に入れて探すようになっていったんですね。とはいえ、先ほども言ったように、開発担当の正社員は当時、私だけでしたから、いろいろなプロジェクトを並行して動かしながら教育もしなければならないという大変な状況だったので、未経験者とはいえ、ある程度、自分自身で事象の裏にある原因を探究するような能力や不確実な環境の中でもなんとか仮説を導き出すことのできる能力のある人を求めていました。そうじゃないと、私の時間を延々と奪ってしまいますからね。
だから、経営チーム案として、パーパスに「知的好奇心の先の『それ、いいね!』をつきつめる。」という言葉を掲げたのは、まさにそういうことが背景にあったのです。つまり、エンジニアになりたいと思って入社してくるのであれば、できる限り手助けはするけれど、基本的には自分自身で好奇心を持って走っていってほしい、ということなんですね。ずっと、そういう人を求めていましたから。
俊也 まさにそうですね。採用において、知的好奇心を持つ人というのはわれわれの共通認識のなかに条件としてずっとありましたね。
ただ、短い採用面接のなかで、そういう素養を持ち合わせている人かどうかを見極めるのはなかなか難しいように思いますが、どんなふうに判断されてこられたのですか?
俊也 好奇心がある人というのは、1つ質問しても1で返すんじゃなくて、1+αで返ってきます。少し話が長いなって思うくらいの人というのが一つの目安です。そこは明確にわかります。聞かれたことにだけ答えるというのとは全然違う。明らかに自分自身が興味を持って調べて、語りたいんだろうな、っていう。そうした態度を積極的に評価していました。
皓也 それから、1回目の面接で答えられなかった質問に対して、2回目のときにもまた同じ質問をして、ちゃんと答えられるかどうか、というのも採用基準の一つになっていましたね。そこで不採用になってしまった人もかなりいたと思います。
そのほかにも、「最近、勉強したことは何ですか?」と聞くこともあります。エンジニアになりたいと言って来たのに、この分野の勉強をまったくしていないのではやはり難しいですからね。
もちろんコミュニケーション能力とか、話す力とか、他者にうまく伝える力といったものも、重視はしています。私自身はあまり得意ではありませんけどね(笑)。
なるほど……お話しを伺って、なぜ経営陣が「知的好奇心」という言葉にこだわってきたのか理解できました。
その後、未来創発キャンバスを使って、企業戦略として「誰に、何を届けるのか」を起点に、どのような商品やサービスのかたちに仕立てるのかを経営陣で考えてきました。そこにも産みの苦しみがあったように感じましたが、いかがでしたか?
俊也 そうですね。進め方を理解するまでは、すごく大変でしたね。事前に何も用意していないのに、今日の1時間で本当に話がまとまるのかな、といった感じで、毎回、しんどかったのは確かです。ただ、進め方を理解してからは肩の荷が下りた感じで、どう意見を出すべきなのか、どう話すべきなのかということがだんだんわかってきて、あまり深く考え込まずに自然に話せるようになりました。未来創発キャンバスの作成についても、後半はさほど苦労しなかったと思います。
皓也 私はずっと大変でしたよ(笑)。課題が出るたびに、毎回、2時間くらいは考え込んでいましたからね。「戦略生成キャンバス」の作成はさらに難しくて、AKIさんが作成にあたって事前に用意してくださった解説動画を一時停止しながら3回くらい見返しました(笑)。
特に何が大変だったのでしょう?
皓也 ゼロからアイデア出しをしていくということですかね。経営メンバーの中では私が一番年下で、人生経験も少ないし、そもそもこれまで経営層の人と話す機会もなく、こうしたことを考えたことがなかったんですね。
AKIさんはこれまでも、いろいろな企業でカルチャーモデル醸成の支援をなさってきたと思いますが、お二人のような反応はよくあることなんでしょうか?
AKI いや、珍しいですね。僕はこれまでこうしたプログラムは大手企業中心に実施してきたのですが、大手企業の人って、自分が納得していなくてもその場に馴染ませる力が優れている、というか優れていないとやっていけないので、それなりに理解して進めてくれるんですよね。その点、お二人は納得がいかないとすぐに顔に出ますね(笑)。それに、僕の動画を3回も見る人なんていませんからね(笑)。そこまで突き詰めて、前提まで疑って探る態度というのは、大企業の取り組みではなかなか見ることがありません。
なるほど、大企業の人たちの場合、与えられたタスクとして業務の一環みたいな関わり方をする人の方が多いのかもしれませんね。ただそうなると、アウトプットも、カルチャーというよりも、皆、似たようなものになる可能性はありますね。
AKI まさにそうなんですよ。だからその企業ならではの、いわゆる独自性や優位性が見えにくくなってしまう。その後のプロセスが大変になってしまうんです。
皓也 いまこのプロジェクトに若い社員たちが関わっていますが、タスク化したくないと思っています。会社の業務として義務的に参加しなければならない、ということではなくて、せっかくめったにない機会だから、楽しみながら一生懸命取り組む姿勢を持ってほしい。実際に、そう伝えています。私自身、ジブンゴトとして一生懸命取り組んでいますからね。
なぜなら、最初こそ戸惑っていましたけれど、この一年半、本当に大変でしたけど、頑張ってきてよかったなと思っているからです。今後、自分で会社をつくるか、同じようなベンチャーに転職しない限りは、こういう機会に恵まれることってないと思うんですね。リーダーとして関わる機会もめったにないし、今後の自分の人生においても、すごくいい経験になりました。
それは、仕事も同じで、職域や職場としての役割が変わるたびに、自分にできるんだろうかと最初は不安に感じても、機会が与えられたことに感謝して頑張ってきたことで、道がひらかれてきたと感じているのです。そのことを、社員の皆さんにも、このプロジェクトを通じて伝えられたらと思っています。
(取材・文=田井中麻都佳)