2024-03-13
Special Contentsカルチャーモデル醸成へのプロセス #4 後編カルチャーモデル醸成プロジェクト開始から半年以上が過ぎたあたりからは、経営チームの議論を受け、全社員参加型で「ビジョナリーチーム活動」と「ワークショップ活動」を展開しています。ビジョナリーチーム活動は、3〜4名からなる3チームがそれぞれ、経営チームが示したキャンバス案を検討。また、ワークショップ活動では2チームにわかれ、実際のサービスに結びつく開発やブランディング活動を展開しているところです。その途中経過を皆で共有する場として、2023年秋、全社員参加のもと、中間発表会も開催しました。
そのプロセスについて、引き続き、部門責任者である佐々木俊也さんと佐々木皓也さんに話を聞きました。
聞き手=AKI(野口正明):とんがりチーム研究所主宰/創発デザイナー 田井中麻都佳:編集・ライター
記事の前編カルチャーモデル醸成へのプロセス #4 前編 源泉は「知的好奇心」にあり~「ジブンゴト」として捉えるマインドセットはいかに培われたか
すでに、「ビジョナリーチーム活動」として、3〜4名からなるスモールチームを組んで、全社員参加型で定期的に議論をしています。また同時に、「ワークショップ活動」として、皓也さんをリーダーとするチームでは、自社で開発した会計事務所のための業務効率化クラウドサービス「Concerto」のランディングページの作成、俊也さんをリーダとするチームでは、現在、Knowledge Baseがシステム開発を支援しているNTT出版の「DISTANCE.media」に関連する、Web年表のプロトタイプの開発を進めています。
まず、ワークショップ活動では、リーダーとしてどのようにかかわっていらっしゃるのでしょうか?
皓也 いや、正直、最初、全社員で始めるにあたっては、AKIさんと坂本さんが、なぜこういうプロジェクトをやろうとしているのか、どういう進め方をしていくのかということを、動画でそれなりにうまく説明して事前に共有してくださっていたので、私自身はあまりリーダーらしいことはしていないんですね。初期導入はうまくいったのかな、と思っています。まぁもっとも、そのときに、「自分自身、最初はすごく戸惑ったけど、こういう機会はめったにないので、ジブンゴトとしてかかわったほうが面白いと思うよ」というアドバイスは皆にしました。
俊也 私のWeb年表の方は、最初はリーダーではなく、数カ月経って途中から参加したのですが、その進み具合に愕然として、喝を入れたんですよ。
そうだったんですか。何があったのでしょう?
俊也 Web年表をつくると言いながらも、開発着手から数カ月も経っているのに、プログラムが開発者のPCのなかだけで動いている状況だったんですね。それじゃシステムというより、自主制作の趣味でしかない(笑)。せっかく会社から好きにつくっていいよと言われているのに、何でそうなるかな、と。普通だったら思い通りにできるならテンション上がるでしょう?
なぜそうなってしまっていたのかというと、おそらくKnowledge Baseのありたい姿への結びつきがないまま、なんとなくやっていたからだろうと思います。そこで思わず喝を入れてしまったわけですが、ただ、これがカルチャーモデル醸成プロジェクトの一環ではなかったら、メンバーから純粋に嫌われただろうな、と思いました(笑)。
え、そうなんですか?(笑)
俊也 「これだけ時間かけてシステムとしてのカタチがないのはどういうことか?」「いままでいったい何をやっていたのか」と、最初からちょっとキツイ言い方をして説教をしてしまいましたから……。
ただ、もし、これが単なる業務でやっていた開発だったら、私自身、強く叱咤できなかっただろうし、メンバーも理不尽に感じただろうな、と思うんですね。このプロジェクトを通して、すでに「何をしようとしているのか」「なぜこういうことを手掛けているのか」という前提を皆で共有していたからこそ、私の話を聞き入れてもらえたんだろうと思っています。つまり、カルチャーモデルを机上の理論だけで築こうとするのではなく、ワークショップ活動を通して実際に手を動かすことで探っていくということの意味を、皆が理解してくれたんだと思います。そこから中間発表に向けてメンバーの意識が大きく変わったように思います。
具体的には、Web年表づくりを通して、どのようなカルチャーを意識していたのでしょう?
俊也 未来創発キャンパスのなかで示した、「顧客価値を生み出している独自の能力」の欄に書いた「小規模組織でIT分野のフルサービスを実現できる力」の実現をめざしていました。それが現状のWeb年表ではまったく体現できていないよ、ということを指摘したのです。そもそもWeb年表のプログラムが、自分のPCにしか入っていないというのは、外に向けたサービスになっていないわけですからね。また、パーパスに関わることとして、「本当に『それ、いいね!』って思ってる?」と問いかけました。
あぁ、「未来創発キャンバス」の経営チーム案のパーパスに、「それ、いいね!」という言葉がなかったら、説得力を持ってメンバーに伝えることができなかったということですね?
俊也 まさにそうです。もしキャンバスがなかったら、おそらく「それ、いいね!とか、何言ってんの、コイツ」って感じになったと思いますよ(笑)。そういう意味では、先ほどお伝えしたように、このプロジェクトが始まったとき、私はカルチャーをつくることに懐疑的だったわけですが、この一件を通して、社員の成長にカルチャーモデルというものが必須の概念なんだと思うようになりました。それがないと、行動を促すこともできないことを実感したんですね。
AKI それって、すごい発見ですよね。カルチャーこそが個と組織が成長するカギを握っていることに気づいたわけですからね。
俊也 まさにそうですね。
皓也 そういう意味では、われわれも、最初に経営チーム案について、きちんと説明すべきだったな、ということは後になって反省もしたのです。最初にちゃんと説明していたら、スムーズに進んでいたのかな、と。
AKI 僕はその一連の流れを、お二人に対する月一のコーチングを通して見ていたわけですが、前編でお話しいただいたように、お二人とも最初の半年間、「未来創発キャンバス」と「戦略生成キャンバス」の作成に相当に苦労されていたからこそ、そこで生み出してきた言葉がからだの軸のように染み込んでいったんじゃないかと思うんですね。だからこそ、具体的なプロジェクトを動かす際に、それをどう反映させていったらいいのか明確に見えていたんだろう、と。
また、Knowledge Baseがめざす「それ、いいね!」を実現しようと思ったら、そういうものをつくりあげるだけのITの基本スキルが欠かせないことに気づいた、と俊也さんもおっしゃっていましたね。キャンバスに記し、また同時に手を動かすことで、自社が理想とする姿に対して何が足りていないのかが見えた、というのは非常に大きな出来事だったと思います。
つまり、最初にいくら説明してもなかなか実感は湧かないもので、実際に手を動かしてモヤモヤしたり葛藤したりするなかで、原点に立ち返る、といったことを通してしか、ジブンゴトとして取り組むことは難しいのだと思います。
一方、面白いことに、中間発表でワークショップ活動の成果を発表しているときに、皆さんの口から、「それ、いいね!」という言葉が飛び交っていたんですよ。あぁ、本当にこの会社では日頃から、「それ、いいね!」って言いながら仕事をしているんだな、と思ったし、これぞKnowledge Baseのコアとなるカルチャーなんだな、と感じて見ていました。
ワークショップ活動に関して、中間発表での成果をどう見ていらっしゃいますか?
俊也 やっとスタートラインに立てたという感じです。システムのベースができて、ここからさまざまな機能を増やすべくリリースを重ねていける環境は整ったと思っています。もっとも、中間発表の時点で、もう少し機能を増やしておければ良かったかな、とは思っていますが。
ただ、皆さんの成長も感じていて、最初は一つの機能をつくり込むことに執着していたのですが、そうではなく、このWeb年表をどう見せたら面白くなるのか、さまざまな可能性を示す場だということは理解してもらえたと思っています。最近では、こういう技術を使ったら、こういうことができるんじゃないか、というアイデアがさまざまに出始めていて、いい変化だなと思って見ています。
皓也さんのチームはどうですか?
皓也 Concertoは商品サービスを説明するランディングページをつくっているのですが、内容もよく練られているし、プロのデザイナーにお願いしてデザイン段階まで実現したのはよかったと思います。実際にもうすでに公開しています。これは、会計事務所のための業務効率化クラウドサービスなんですね。すでにある会計事務所で使っていただいていて好評も得ているのですが、今後、より多くの会計事務所に周知するうえで、このランディングページが重要な役割を担っていくことになると思います。
先ほども言ったように、この取り組みを義務感にはしたくなかったんですね。そういうことを言い続けて半年近く続けてきたなかで、途中から誰かが「私はAをやります」と言うと、別の誰かが「じゃあ、私はBをやります」といったかたちで、自律的な役割分担も含めて能動的に動くようになってきたんですよ。ワークショップ活動を通して、自主性が培われてきたというのは、大きな変化だと思っています。もっとも、実際の業務のほうでは、まだまだ自主的にボールを取りに行くところまでは育っていないんですけどね(笑)。そんなわけで、私自身が自主的にボールを取りに行く姿は見せるようにしています。
「ビジョナリーチーム活動」のほうはどうでしたか? お二人はビジョナリーチームの一員としても関わっているわけですが、そもそも経営チーム案をつくったうえで参加しているので、難しい立ち位置を求められたように思うのですが。
皓也 そういう意味では、私は経営チームがつくったキャンバスの解説役に回っていました。先ほど言ったように、事前の説明が足りなかったこともあり、このチーム活動のなかで解説をしていくかたちになりました。基本的には残りのメンバーで議論を進めてもらっていましたね。
皆さん、すんなり理解されていた感じですか?
皓也 そういうものもあれば、違うんじゃないかな、という意見もいろいろ出ましたね。そのなかで「知的好奇心」の「知的」って言葉は不要なんじゃないか、とか、「Liberal Arts(リベラルアーツ)」という言葉はわかりにくい、といった意見が出てきたわけです。
俊也 私はチーム「四方山話」だったので、チーム名通り、雑談ベースで進めていって、「未来創発キャンバスのこの言葉をどう思う?」と聞いたりして、それに対する意見をメモに残していくというのを週一で1時間、積み重ねていきました。
AKI 僕が側で見ていて面白いなと思ったのは、このお二人が所属していたチームはアプローチが真逆だったことです。皓也さんがいた「にこちゃん」チームは具体的な行動指針を抽出していったし、俊也さんのいた「四方山話」のほうはそもそも論、本質論的な話をしていましたよね。そこにはお二人の影響が大きかったのでしょうか?
皓也 私がいたビジョナリーチームのリーダーは、若手の最初に入社したメンバーで、AKIさんや坂本さんから提示された課題を達成できるように進めていった結果、行動指針が必要だろうということになっていった感じですね。
俊也 私の方は、それなりに介入しました。今回の課題は、議論をしながら経営チームが示したキャンバスへの理解を深めていって、違和感があれば書き換えていく、ということがお題だと思ったので、行動指針の話になりそうになると、あえて議論を戻していましたね。
なるほど。実際に議論していくなかで意見が割れたときには、どのように対応して、意見を集約していったのでしょうか?
皓也 意見はけっこう割れていましたね。
俊也 そうなんだ?
皓也 うちのチームでは、経営層とはまったくちがう意見もかなり出ていました。そこはあまり介入せずに、リーダーに任せていました。
俊也 うちは不思議と意見は分かれなかったですね。そのなかで、なるほどね、そういう考え方もあるんだね、それいいね、と記憶に残ったものだけを最終的に共有化していった感じです。あ、でも、「リベラルアーツ」を「信頼」という言葉に置き換えたところは、話し合った結果ではなくて、リーダーの熱い思いから出てきたんですね。中間発表でいきなりリーダーがプレゼンで話していて、「あれ? そんな議論したっけ?」とはなりました(笑)。
そうだったんですね(笑)。中間発表そのものはいかがでしたか?
俊也 普段はオンラインで仕事をすることが多いので、中間発表を通して、全社員が一堂に会すること自体が新鮮だったし、これこそが経営チーム案で挙げた「チーム体験」につながっていくのかな、と感じました。組織への帰属意識を醸成するうえでも有意義な取り組みだったと思っています。また、社員たちの発表そのものも、自分の言葉で伝えようとしていて、まさに能動的に参加していてとてもよかったと思います。
皓也 そうですよね。仕事としてやっているという感じではなく、それぞれがキャンバスについての自分の考えをしっかり話していてとても嬉しかったですね。
AKI これまでさまざまな企業でカルチャーモデル醸成の支援を手掛けてきましたが、他社では、私がかなり手厚く介入してもなかなか進まないことも少なくないんですよ。ところがKnowledge Basedでは、まだ入社してきたばかりの経験の浅い若い人たちが、かなり自主的に進めていて驚いています。
ただ、お二人のお話をお聞きして納得したのは、経営陣の暗黙知として「知的好奇心」を持っている人を積極的に採用するということをしてきたからこそ、このプロジェクトが自走的に進んでいるんだろうな、と感じました。採用で大事にしていたプロセスと現在検討中のカルチャーモデルが、いい相互作用をもたらしているわけですね。
さて、いよいよここからまた数ヶ月かけて、キャンバスを完成させていくことになります。引き続き、楽しみながら頑張っていきましょう。
(取材・文=田井中麻都佳)