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Articles : OUR EFFORT

2023-03-27

Special Contentsカルチャーモデル醸成へのプロセス #3 前編

組織の未来をひらく、創発アプローチとは?
「ティール組織」をめざすKnowledge Baseのユニークさ

Knowledge Baseのカルチャーモデル醸成プロジェクトは、2022年6月の開始から半年が経過しようとしています。ここまで月に2回程度のペースで、坂本之総社長を中心に、部門責任者である佐々木俊也さん、佐々木皓也さんも交えて対話を重ねてきました。

その対話のなかで少しずつ見えてきたのが、「知的好奇心」を起点とした経営陣たちの熱い想いです。今回は、彼らの内なる声を呼び起こし、明確に言語化される前の想いのカケラをていねいに拾い集めて対話を進めてきた、AKIさんこと創発デザイナーの野口正明さんに、坂本社長との関わりと組織の進化論、そして創発アプローチについて伺いました。

AKI(野口正明):とんがりチーム研究所 主宰/創発デザイナー

対話型組織・人財開発のコンサルタント。日・米の大企業にて人事マネジメント経験後、2006年、企業風土改革支援のコンサルティングファームに加入。2018年にとんがりチーム®︎研究所を創業し、ひとり起業家として活躍中。一人ひとりの想いや持ち味が解き放たれ、重なり合って、組織やチームの新たな物語が生まれる仲立ちが真骨頂。持続可能なまちづくり「トランジションタウン」に参画するため、2013 年末に藤野(相模原市)に移住。2020年、「気候変動の藤野学」で気候変動アクション環境大臣表彰を受賞。情報経営イノベーション専門職大学客員教授。

聞き手=田井中麻都佳:編集・ライター

編集者、ライター。シンクタンクや編集プロダクションなどを経て1996年に独立。科学技術情報誌の編集長や編集デスクなどを歴任。大学や企業の研究者インタビュー、Webメディアコンテンツの制作、書籍の企画・編集・執筆などを手がける。専門家の言葉をわかりやすく伝える翻訳者(インタープリター)としての役割を追求している。編集・執筆を手掛けた書籍に、2014年ノーベル物理賞受賞者・赤﨑勇著『青い光に魅せられて~青色発光LED開発物語』(日経新聞社)、数学者・河原林健一氏との共著『これも数学だった!?~カーナビ、路線図、SNS』(丸善ライブラリー)、聴覚研究者・柏野牧夫著『空耳の科学~だまされる耳、聞き分ける脳』(ヤマハミュージックメディア)などがある。

きっかけは同期会での再会と一冊の本

AKIさんと坂本社長は早稲田大学グリークラブの同期ということですが、そもそもどういう経緯で今回のカルチャーモデル醸成プロジェクトを始めることになったのですか?

AKI それこそ今年1月にグリークラブの同期のオンライン飲み会があって、その席で、坂本さんが起業したことを初めて聞いたんですね。その1カ月後くらいに、改めてご本人から直接連絡をもらい、ぜひ支援してほしいと言われたのがきっかけです。

びっくりしたのは、坂本さんが僕の本※1を読んでくれていて、とても共感したので、ぜひこの手法でやってほしい、と言われたことでした。これまで、大企業を中心にさまざまな組織の課題解決のお手伝いをしてきましたが、いきなり創発アプローチをやりたいと言ってきた経営者は初めてだったのでたいへん驚きました。というのも、多くの組織の課題というのは、もっと手前にあって、「事業を刷新したいけど、どうしたらいいか」とか、「離職率が高まっているからなんとかしたい」とか、「ミッションやビジョンをもっと浸透させたい」といった、個別の課題からコンサルティングに入っていくケースがほとんどだからです。

2015年にあの本を書いた時点では、ティール組織※2という概念もまったく知られていなかったし、書いた僕自身が、これはなかなか理解されにくいだろうなぁと思っていたんですね。その後、ティール組織が注目されるようになったとはいえ、創発アプローチによる組織変容の方法論は、まだほとんど導入が進んではいないように思います。

ご著書では、みらいゴム工業という架空の大手素材メーカーを舞台に、営業部門の中堅・若手のメンバーが集まって未来創発の提言に挑戦するというストーリーが描かれています。チームが創造的ひらめきを生むための秘訣が段階ごとに示されていて、私も興味深く読ませていただきました。確かに、実際にあの手法を実践するのはなかなかハードルが高そうな気がします。

AKI そう、日本の組織の場合、あのように大胆に変えていくのは、組織内のしがらみが大きすぎてなかなかできません。ただ、あのストーリーは8割以上がある大手クライアント企業での実話なんです。なぜそれができたかというと、半年間におよぶプロジェクト形式での「研修」だったから。実際、せっかくいい芽が創発したのに、営業革新のプロセスに組織として本格的に導入されることはありませんでした。そんな背景もあって、最初は坂本さんがそこまで本気でやろうとしているのかどうかも疑わしかったし、ティール組織が流行っているからちょっとファッション的にやってみようという軽い気持ちなのかな、と思っていたのです(笑)。

そうしたらガチだったという(笑)。

AKI そう。坂本さんが最初に、リゾーム状(根茎。転じて横断的に張り巡らされた根が結びつく様子)の組織をめざしていると言ったときに、これはまさにティール組織の本質論に近いと理解したし、僕自身、ベンチャー企業で創発アプローチを実践すること自体が初めてだったので、これは面白い展開になるだろうな、という予感はありました。


※1 僕の本

野口正明著 『組織の未来をひらく創発ワークショップ 「ひらめき」を産むチーム30の秘訣』(経団連出版/2015年)

組織の未来をひらく創発ワークショップ-「ひらめき」を生むチーム30の秘訣 - Amazon

※2 ティール組織

2014年にフレデリック・ラルーが、『Reinventing Organizations』の中で紹介した概念。ティールとは「青緑」の意。組織を5つの色(モデル)ごとに表現したときに、もっとも進化した組織のかたちがティール組織であり、生命体のように進化し続ける次世代型組織を指す。なお、日本では2018年に、『Reinventing Organizations』の邦訳版が『ティール組織』のタイトルで出版され、新しい組織論として脚光を浴びるようになった。


組織変容の5つのステージとは?

そもそもティール組織というのは、どういうものなのでしょうか?

AKI 図1を見ていただくのがてっとり早いのですが、これはティール組織を提唱したフレデリック・ラルーの『ティール組織』を参考に作成したものです。組織の進化過程のモデルを、レッド(赤色)、アンバー(琥珀色)、オレンジ(橙色)、グリーン(緑色)、ティール(青緑色)の5つの色で表現しています。この一番外側にある段階、つまり進化のさしあたっての最終形態がティール組織になります。では順番に見ていきましょう。

まず、①のレッドは衝動型組織とありますが、これはマフィアのように独裁的なボスが組織全体を牛耳っている組織のこと。大企業ではあまり見かけないかもしれませんが、権威主義的な国家や旧態依然とした政治団体のなかには、いまだにこうした組織が多く存在していますよね。次にこれが進化すると、軍隊や行政機関などに代表される②のアンバー、順応型組織になります。理想とする姿ではないでしょうが、日本のレガシー企業の大半は実態としてこのアンバー型が多いように思います。組織や上司の言うことには逆らわず、基本的に順応して動く、という組織ですね。

さらにこれが進化すると、③オレンジの達成型組織になります。外資系の企業などに多く見られますが、利益の拡大といった目的達成のために合理的、効率的に動く組織です。組織の上層で戦略を決めて、その戦略を下へ効率的に落とし込んでいって成果を上げていく。ある意味、現代社会においてもっとも利益を上げることができる組織と言えます。ただし、合理化が行き過ぎると、人間の本性や組織の柔軟性が失われて融通の効かない、面白みに欠ける組織になりがちです。

ちなみに、多くの日本企業は②のアンバーから脱却して③のオレンジをめざしているけれど、あまりうまく行っていない印象があります。

F.ラルー 「組織の成長・進化の階層構造」

図1 【組織ステージ】組織変容、5つのステージ

なるほど。これまで自分が関わってきた組織がどうだったのか、直感的に理解でますね。現状、お付き合いのあるクライアントは、アンバー、もしくはオレンジが多い印象です。

AKI さて、この先は組織の様相がぐっと変わります。④のグリーンの多元型組織というのは、従業員一人ひとりの価値観や文化を大事にする組織で、ある意味、家族的で、かつフラットな関係性が成り立っています。機能体としての組織から共同体としてのコミュニティへ歩み寄った組織と言ってもいいかもしれません。

それはなんだか良さそうな気がします。

AKI そうなんですがここにも大きな問題があります。個々人の価値観を大切にするあまりに、物事を決めるのに非常に時間がかかってしまうんですね。これは「グリーンの罠」と言われているのですが、それぞれが勝手な動きをするので、組織全体としての成果も出にくい。それでは効果的で持続可能な組織運営は難しくなってしまいます。

個々人は良くても、組織全体としては弱いわけですね。

AKI そうなんです。このグリーンの課題を克服したのがティール組織になります。つまり、個々人を大切にし、フラットな関係性を保持しながらも、誰が命令するということもなく、良質な結果や価値が自然なカタチで(そのような状況をしくみ化することも含めて)生まれてくる組織です。個々が思い思いに動きながらも、全体として一つの生命体のように進化し続けていく、組織の一つの理想形と言えます。そして、Knowledge Baseはまちがいなく、このティール組織的なものを視野に入れているようです。現状の日本の企業では稀有なことだと感じています。

それぞれの組織の長所・短所を超えてティール組織へ

AKIさんご自身も、これまでにさまざまなタイプの組織を経験してこられたのでしょうか。

AKI 1988年に社会に出てから三十数年になりますが、その間、さすがにレッドはありませんが、それ以外のさまざまな組織を、順番通りに経験しながらキャリアを積んできました(笑)。最初に入社した国内の大手企業は完全に②のアンバーで、定型業務の繰り返しを得意とする上位下達のピラミッド構造組織でした。一度慣習が定着すると、その意味も問われない。そんなわけで、日々、非合理の極みでしたね(笑)。たとえば、常態化した長時間残業。僕はそれが我慢できず、一人だけ早く出社して、17時の定時きっかりにやるべきことを終えて退社するようなことをしてひんしゅくを買ったりもしていました。結局、それが嫌でアメリカ企業に転職したのですが、ここはまさに戦略にもとづき合理的に物事を進めるオレンジ型の組織でした。意味のないだらだら会議も少なく、自分の権限と責任の中でどんどん決めて動けるので非常に働きやすい。自分にとっては、転職当初は天国のように感じたものです。

一方、オレンジ型の組織は、目に見えることが全てなので、曖昧な言葉遣いや数値化しにくいものを嫌うところがあります。HRマネージャーとして従業員にヒアリングした結果、「皆さん一様に、チームとしての一体感が不足していると言っています」と上司に報告したら、「一体感なんていう曖昧な言葉を使うな。数値で明らかにできる指標だけを対象にしなさい」と注意されたことがありました。

また、オレンジ型の組織は、組織のなかのほんの一握りの優秀なトップ層が優れた戦略を立て、それを下にブレイクダウンして合理的に事業を進めていくので、現場からボトムアップ型で施策を提案することはほぼ皆無なんですね。つまり、社員一人ひとりの想いなんてどうでもいいというわけです。上が決めた戦略を実行すれば、自ずと利益が上がるというシンプルな構造の組織体ですからね。そういった意味ではアンバー型の日本企業のほうが、非合理なことは多かったけれど、社員一人ひとりの想いをもっと大切にしていたように思います。そこに、オレンジ型組織の限界を感じていました。

その後、日本企業の社員一人ひとりの想いをボトムアップ的に拾い上げる要素と、米国企業の優れた戦略性や合理性の要素を統合するような組織開発の仕事をしてみたいと、社員の想いのネットワークによって組織風土改革を手がけるコンサルティング会社に転職しました。ここはまさに典型的なグリーン型の企業でした。個々人が思い思いに働いていて、一人ひとりの価値観や文化を大事にする組織です。それはそれで良い面も多々あるけれど、評価一つを取っても、自分自身も含めて互いに評価し合う方法を採用していたので、合意形成に非常に時間がかかってしまうのです。ときにはあきれるようなこともあって、遅刻をする社員が多いことに対して、「なぜ遅刻をしてはいけないのか」といった議論を大真面目にやっていたこともあります。いや、議論するまでもなく、さすがに遅刻はアウトでしょう(笑)。

確かに(笑)。ちなみに、かつてのグリークラブはどうでしたか?

AKI 上下関係が厳しくて、下級生が上級生にほぼ逆らえないという意味では、レッドやアンバーに近いところがありました。ただ、本質的には家族的でグリーンに近い組織だったように思います。グリークラブの良きライバルである慶應大学のワグネル・ソサィエティーは典型的なオレンジです。ワグネルの場合、演奏会の直前は皆がマスクをして、余計な声を一切出すことなく本番という目標に向かって全員が集中するので、安定感は抜群でした。一方の我々は、演奏会前の決起会で声がガラガラになるほど飲んで騒いで一体感を高めるといった具合でしたから(笑)。グリーは、ときどきとんでもなくいい演奏をするけれど、ムラがあるんです。このように、大学のクラブでも組織のカラーは大きく違うわけですから、ましてや会社となると本当にそれぞれですね。

現状、日本にティール組織と言える企業は存在するのでしょうか?

AKI 真の意味ではほぼ存在していないのかもしれません。その点、Knowledge Baseはかなりポテンシャルがあるという印象を持っています。一方で、典型的な日本企業はいまだにアンバーから抜け出せていません。1990年代に成果主義※3に飛びつき、多くの日本企業がオレンジ型組織をめざしたけれどうまくいかず、現在まで経済的に成功できないまま来てしまった感があります。そして、四半世紀経った今頃になって、またジョブ型※4などと言い出している。大事なのは、形式ではなく本質的な組織の在り方をどうしたいかだと思うのですが。

そういう意味では、自律的なマインドと高いスキルを持った社員が多く、さらにそのスキルを磨きながら組織全体として共創し、進化していこうとしているKnowledge Baseには、心底、大きな期待を寄せているのです。


※3 成果主義

仕事の成果や業績、実力などに応じて従業員を評価し、その評価によって給与や人事などを決定する人事制度のこと。

※4 ジョブ型

企業があらかじめ定義した職務内容(ジョブ)に基づいて、必要な人材を採用し、配置する制度。一方のメンバーシップ型雇用制度では、「適材適所」の考えに基づいて人事を行う。


(取材・文=田井中麻都佳)